02. AIツールを入れる前に、横断チームをつくる――錦江町「soyjaga」の組織変革 連載第1シリーズ システムチェンジの見取り図

自治体の生成AI導入では、最初に製品比較から始まりやすいものです。
どのサービスが安全か、何人使えるか、議事録を何分で要約できるか等々・・・。
それらはもちろん必要な検討ですが、ツールを導入しても、職員が何を任せ、何を人が判断し、失敗をどう共有するかが決まっていなければ、利用は一部の詳しい人に偏りますし、そもそも業務の主体や責任すら曖昧になりかねません。
余談ですが、人間とAIの決断の境界をどこに設定するかといったことは、2026年夏時点で学会でもかなりホットな話題になっているようです。

錦江町役場では2025年4月、課を横断するAI検証班「soyjaga」が発足し、エーゼログループの関連会社であるA0AIがチームの立上げと運営を支援しました。
この事業は、特定プロダクトの完成を第一目的とせず、AIを主体的に取り入れ、協働できるチームをつくり、縦割りを越えた思考と連携の文化を育てることを目指しました。
議会答弁支援など、実務上の課題を題材に現在も試行錯誤を続けています。

このように、AI導入を情報システム調達ではなく、行政組織の学習能力をつくる介入として見ると、成功条件は大きく変わります。

AIの性能より、問いを持つ現場が先に要る

生成AIは、文章作成、検索、分類、要約、対話など多くの作業を支援できます。
一方、現場の業務がどこで詰まり、どの判断に時間を使い、何を誤ると住民へ不利益が出るかは、製品側には分かりません。
導入企業が提示するユースケースをそのまま選ぶと、技術的には動いても、日常業務に入りません。

soyjagaの特徴は、役場職員が自分たちの業務課題からテーマを選び、議論と試作を重ねていることです。
議会答弁の過去資料を探す負担のように、本人が何度も経験している摩擦を出発点にします。
外部ベンダーが「自治体にはこれが便利です」と決めるのではなく、職員が何を改善したいかを言語化します。

複雑適応系では、技術導入の結果は、技術そのものと組織のルール、権限、技能、信頼の相互作用で決まります
同じAIを入れても、試せる時間がない組織、失敗が人事評価に響く組織、データへアクセスできない組織では学習が進みません。
AIの能力が毎月変わる時代には、完成した導入計画より、変化を検証できるチームの方がより効果的に使える楊になります。

横断チームにする意味もここにあります。
自治体業務と言っても、総務、福祉、産業、議会対応など、それぞれにデータとリスクが異なります。
複数部署が小さな実証を共有すれば、特定課の便利ツールではなく、役場全体の判断基準が育ちます。
若手とベテランが組めば、デジタルへの慣れと制度・地域の文脈を交換できます。
年齢で「使える人」と「使えない人」を分けるより、異なる知識を同じ課題へ置く方が建設的です。

チーム名のsoyjagaは、「それいいね、そうだね、やってみよう」という地域の言葉に由来します。
少々かわいい名前ですが、組織設計上の意味合いは大きいものです。
新技術の検証では、完璧な提案より、小さな仮説を素早く試せる反応規範が重要だからです。

小さな試作に、権利と失敗のガードレールを置く

「まず使ってみる」という姿勢は大切ですが、行政では何でも試してよいわけではありません。
個人情報、機密、著作権、説明責任、差別、誤情報があります。
安全を理由に全面禁止すれば学べず、推進を理由に現場へ丸投げすれば事故が起きます。
必要なのは、安全に失敗できる範囲を先に決めることです。

このような形でのAI導入の第一段階は、実証テーマを、影響度と可逆性で分け流ことです。
公開情報の要約、内部の下書き、検索支援などは比較的試しやすいテーマです。
一方、給付、福祉判定、採用、住民への最終回答など権利に関わる判断は、AIへ委ねず、人による確認と異議申立てを必須にする必要があります。
試作品は本番系と分け、使えるデータを限定し、ログを残すことも重要です。

精度評価も、正答率のみでは十分とは言えません。
時間短縮、見落とし、職員の認知負荷、説明可能性、利用継続、住民への影響等様々な観点からの評価が必要です。
AIが速く案を出しても、確認に倍の時間がかかれば価値はありません。
逆に、回答を直接生成しなくても、過去資料の候補を絞るだけで大きな効果があります。
何を自動化するかではなく、どの認知作業を支援するかを明確にします。

失敗記録は個人のミスに帰結させません。
どんな指示で誤り、どのデータが足りず、どの確認で防げたかをチームの知識にします。
AIの出力を信じすぎた人を責めるだけでは、次から失敗が隠れます。
逆に「AIだから仕方ない」で済ませてもいけません。
人と道具の役割分担を修正する材料として扱います。

外部支援者の役割は、正解のシステムを納品することより、職員が仮説設定、試作、評価、更新を回せるようにすることです。
コードやプロンプトをブラックボックスにせず、担当者が変更理由を説明できる状態を目指します。
支援終了後も、次のAIへ乗り換え、使わない判断もできる能力が残らなければ、伴走とは言得ません。

プロジェクトを、役場の文化へ変える

プロジェクトが成果を出しても、プロジェクトメンバーだけが詳しい状態では組織変革になりません。
異動、繁忙、年度終了でチームが止まれば、知識も止まります。
soyjagaが掲げる「役場の文化」へ広げるには、試作品と同時に制度を変える必要があります。

第一に、利用方針を禁止事項一覧で終わらせず、業務別の判断ガイドにします。
どのデータを使えるか、どこで人が確認するか、住民へAI利用をどう説明するかを具体化します。
第二に、月一回でもよいので、部署を越えた相談と事例共有の場を置きます。
成功デモより、うまくいかなかった使い方を扱います。
第三に、管理職の役割を明確にします。
利用を号令するだけでなく、検証時間を確保し、リスクの高い実証を止め、成果を業務改定へ反映させます。
職員が空き時間に善意で試すだけでは、忙しい部署ほど学習から取り残されます。
そのような状況を防ぐことが管理職には求められます。
第四に、成果を削減時間だけで測りません。
空いた時間が住民との対話、政策形成、現場確認に使われたかを見ます。
効率化で人を減らし、残った職員の業務を増やすだけなら、創造的な役場にはなりません。
時間短縮は目的ではなく、人が未来を考える時間へ変換されて初めて価値になります。

企業や他自治体が錦江町の事例を導入する際、同じツールをコピーする必要はありません。
必要なのは、現場起点の問い、課横断の小チーム、安全な実証、失敗共有、運用移管という一連のループです。

なお、使わない判断も成果に含めます。
試して不適合だと分かった業務を共有すれば、他部署が同じ遠回りをしなくて済みます。
導入率だけを追うと、慎重な撤退が失敗に見えてしまいます。

AIに限らず、さまざまなツールを導入する際は前に、そのツールを試しながら、学べる組織をつくります。
技術の変化が速いほど、買った答えは早く古くなります。
それに対して問いを更新できる職員と文化は、ずっと長持ちするのです。

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