「応援」を一つの課に置かない――厚真町の庁内横断チームがつくる行政能力

地域の挑戦支援を始めると、担当課をどこに置くかが議論になります。
産業振興か、企画か、移住か、農林業でしょうか・・・いずれにせよ組織図のどこかに丸を付ければ責任部署は決まります。
しかし、挑戦者の案件は組織図を読んでから生まれてくるわけではありません。
農業と観光と福祉とデジタルが一つの構想に入ります。
そこで「所管外です」が連続すると、挑戦の方が先に息切れします。

厚真町のチャレンジ応援プロジェクトは、主に役場職員が担い、さまざまな課からメンバーが参加しています。ローカルベンチャースクールでも、現役起業家だけでなく、町内事情に通じた役場職員がメンターになります。
これは、民間の挑戦を行政が外から支援する形ではなく、挑戦者との対話を通じて行政自身の観測力を更新する仕組みとして考えることができます。

「応援」を一つの課へ置かないことは、責任を曖昧にすることではありません。
複数部署が、異なる資源と制約を持ち寄る横断能力をつくることです。

挑戦者の案件は、所管の境界を横切って成長する

新規事業の初期には、必要な資源が確定していません。
空き施設が必要になるかもしれず、農地、許認可、学校、地域交通、福祉機関、広報が関係するかもしれません。
最初から担当課を一つに固定すると、その課が持つ制度と人脈の範囲で事業案が整形されます。
その方が行政としては扱いやすくなるかもしれませんが、事業として重要な接続が落ちます。

複雑適応系では、新しい活動は既存要素の新しい組み合わせから生まれます。
役場内の部署は、予算、法令、現場情報、住民ネットワークという異なる資源を持つノードです。
横断チームの価値は、会議を増やすことではなく、挑戦者の仮説に応じて必要なノードを早くつなぎ替えられる点にあります。

厚真町の運営メンバーは、地方創生、まちづくり、産業経済、林業・森林再生など異なる位置から「応援」を語っています。
全員が同じ見方をする必要はありません。
雇用を増やしたい視点、本人の幸福を優先する視点、町民の小さな挑戦を増やす視点、地域の応援力を高める視点などなど様々な視点が併存することに意味があります。
目的を一つにそろえすぎると、現場で見落とすものまでそろってしまいます。

ただし、横断チームは「みんなで担当するので誰も決めない会」になりやすくなります。
これを防ぐには、案件ごとに主担当を一人置き、他部署は助言者・接続者として関わるのが効果的です。
予算執行、個人情報、許認可、対外説明の責任も明記します。
横断とは、権限を霧にすることではなく、責任の線を保ったまま情報の壁を低くすることです。

メンターになると、職員の観測範囲が変わる

役場職員がメンターになることには、挑戦者へ町の制度や人を紹介する以上の効果があります。
職員は、申請書になる前の迷い、事業者が役場へ言いにくい懸念、制度が想定していない行動を知ります。
通常の窓口では、住民は用件を行政の様式へ翻訳して持ってきます。
メンタリングでは、その翻訳前の情報に触れられます。

この情報は政策形成上の先行指標になります。
相談が特定の段階で止まる、複数人が同じ規制や場所で困る、制度説明をしても行動につながらない・・・こうした反復は、個人の努力不足ではなく、地域の構造的な摩擦を示します。
職員が複数案件に関われば、点の相談がパターンとして見えてきます。

同時に、職員自身の役割認識も変わります。
審査・許可・説明をする人から、仮説を共に検討し、適切な相手へ接続する人になります。
これは行政が事業者の代理経営をすることではありません。
事業上のリスクは本人が負う一方、行政にしか見えない制度間の隙間や公共資源の使い方を示すのが役割になります。

メンター経験は庁内の翻訳能力も高めます。
起業家の速度と行政の手続、現場の口語と予算書の言語、個人の願いと公共性を往復する人が増えます。
官民連携が止まる原因は、双方に善意がないことより、異なる時間尺度と言葉を翻訳できる人が少ないことにあります。
それらを翻訳施設ぞ気できる人が役所内に増えるのです。

ただし、メンター役の職員に過剰な期待を載せてはいけません。
本来業務に加えて夜間・休日の伴走が続けば、応援文化は献身できる人だけの文化になります。
例えば、面談時間を業務として確保し、複数人で記録を共有し、専門外は外部メンターへ渡すなどといった工夫が必要です。
熱意は大切ですが、熱意を勤務制度の代用品にしてはいけません。
役場も人間が働く場所なのですから。

応援を行政能力にし、それを通じて文化を醸成する

庁内横断プロジェクトの弱点は、中心人物の異動や退職で関係が切れることです。
担当者の携帯電話にしか履歴が残らない状態では、地域が応援しているのではなく、個人が頑張っているだけです。
継続可能性を持たせるには、以下のような案件支援を組織学習へ戻す仕組みが要ります。

  • 第一に、相談から実証、制度利用、休止までの経路を簡潔に記録します。個人の詳細を集めすぎず、どこで詰まり、誰との接続が有効だったかを残します。
  • 第二に、四半期ごとに複数案件を横断して振り返り、制度上の摩擦を政策提案へ変えます。成功事例の発表会だけでは、うまくいかなかった構造が消えます。
  • 第三に、部署ごとの「応援資源台帳」を持ちます。利用可能な施設、相談できる専門家、実証に使える事業、予算時期、許認可の前提、地域組織との接点を更新します。分厚い冊子にすると更新されないので、検索できる小さな台帳でよいです。
  • 第四に、横断チームの成果を採択件数だけで測らないようにします。相談者が次の一歩を明確にできた割合、部署間の接続時間、町内事業者との協働数、制度改善、支援終了後に残った関係を見ます。案件が中止になっても、早期に不適合が分かり、別の選択肢へ移れたなら価値があります。

この辺りは、企業でも同様で、新規事業部だけに探査を任せると、法務、調達、現場、営業の境界で止まります。
横断チームは、全員を起業家にする仕組みというわけではなく、それぞれの専門性を保ったまま、未知の案件へ接続できる組織能力を育てる仕組みです。

さらに、通常業務と探査案件では意思決定の速度が違います。
どこまで現場で決め、どこから組織判断へ切り替えるでか、この閾値がはっきりしない横断組織は、速く動こうとして結果的に毎回ブレーキをかけることになりがちです。
横断チームに小さなの試行枠と、一定リスクを超えたときの上申経路を持たせれば、すべてを上長へ戻さずに済みます。

厚真町の「応援」は、優しい言葉だけでは成立しません。
誰が向き合い、誰がつなぎ、どこで判断し、何を組織へ残すかという実務の束です。
応援を一つの課へ置くのではなく、どの課からでも挑戦へ通じる道をつくっています。

そこまでできて、応援は行政の能力となり文化としても醸成されるのだと感じます。

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