計画の目標を、担当者、予算、判断期限につなぐためのガイドです。人口2万人以下の自治体を主な対象として、一つの政策課題を選び、90日間の試行と次の意思決定を実行シートへまとめます。
アイキャッチ画像はAI生成によるイメージです。実在の人物や現地の活動を撮影した写真ではありません。
このガイドの対象と到達点
小規模自治体の企画・政策・財政担当者が、既存の計画を実行段階へ移す時に使います。90日という期間は研究所の実務上の提案であり、全ての課題が90日で解決するという意味でも、法定の工程でもありません。
作業後には、一つの課題について、対象となる住民、現状、仮説、最初の試行、判断者、費用、見直し日を記した実行シートを残します。人口2万人という区分も、方法の有効性を分ける検証済みの境界ではなく、本稿が想定する読者の範囲です。
総合計画や総合戦略の策定には、多くの職員や住民の時間が使われます。それでも、計画が完成すると担当課へ事業が戻され、実行段階では従来の予算と業務の仕組みに吸収されてしまうことがあります。
計画の理念が曖昧だからとは限りません。重点目標が示されていても、「最初の誰の判断によって」「どの資源を使い」「いつ実行を開始するか」まで決まっていなければ、担当者は動きにくくなります。
作業前にそろえる情報
総合計画の重点目標、既存事業の実績、利用者の声、現有の人員と予算、決裁と次年度予算の実際の日程をそろえます。計画書の文章から新事業を直ちに作るのではなく、現在のどの仕事を変えればよいかも確認します。
企画部門だけで試行内容を決めず、実施部署と財政担当が、現在の権限でできることと追加判断を要することを分けます。調べても分からない情報は未確認として残し、基準値を都合よく補いません。
担当・情報・判断・記録を対応させる
ここで示す分担は、実際の組織体制に合わせて調整する提案です。兼務する場合も、どの立場で判断したかが分かるようにします。
| 担当 | 使う情報 | 行う判断 | 残すもの |
|---|---|---|---|
| 企画担当 | 計画の重点と現場の記録を確認します。 | 最初に扱う課題を絞ります。 | 課題と仮説を1枚に残します。 |
| 実施部署 | 現行業務と利用条件を確認します。 | 限定試行の範囲を決めます。 | 実施記録と負担を残します。 |
| 財政・関係部署 | 予算と正式な手続を確認します。 | 既存枠と追加承認を区別します。 | 判断事項と次の期限を残します。 |
| 判断者と関係者 | 試行結果と未解決事項を確認します。 | 継続・修正・停止を選びます。 | 理由と次期の担当を残します。 |
判断を進める手順
「計画の目標」と「今期の仕事」を一枚でつなぐ
総合計画には「安心して暮らせる地域」「新しい雇用の創出」などの目標が並びます。これらは重要ですが、現場の実行単位としては大きすぎます。
そこで、一つの政策目標につき、次の七つを一枚にまとめます。
- 住民に生じてほしい変化: 誰の生活や仕事の何が改善するのでしょうか。
- 今ある事実: 人数、地域、既存サービス、利用状況など、確認できる情報は何でしょうか。
- 仮説: どの条件を変えると、望む変化につながりそうでしょうか。
- 最初の取組: 現有の人員と予算で実施できる、小さな試行は何でしょうか。
- 責任と協力: 誰が決め、誰が実施し、誰に協力を求めるでしょうか。
- 判断期限: いつ、継続・修正・停止を決めるでしょうか。
- 次の予算との接続: 本格実施する場合に、費用と所管をどう扱うでしょうか。
この一枚は、新たに立派な計画書を作るためのものではありません。関係部署が同じ事実を見ながら、次の判断を行うための道具です。
例:買い物支援を90日で試す場合
ここからの例は、手順を説明するための架空の自治体・架空の事業です。実際の成果を示すものではありません。
ある町で、高齢者が日常の買い物に困っているという声が挙がっているとします。すぐに新しい移動販売事業を始める前に、まず問題を確かめます。対象地区で実際に困っている人数はどの程度でしょうか。既存の商店や宅配はどこまで対応しているでしょうか。移動手段の制約なのか、商品選択の問題なのか、それとも配達を頼みにくいという心理的な障壁なのでしょうか。
そのうえで、商店・福祉担当・地区住民などが協議し、仮に週1回の共同注文と受渡しを試すことにしたとします。最初の取組は、町全域への導入ではなく、一地区での限定的な検証です。
評価するのは参加者数だけではありません。継続利用の希望、受渡しを担う人の負担、商店側の採算、利用できなかった人の事情などを確認します。期待する効果が見られなければ、別の方法へ変更するか、実施そのものをやめる判断も必要です。
90日間を五つの工程に分ける
1~2週目:課題と判断者を確定する
企画担当だけで結論を出さず、実施に関わる部署、財政担当、既存事業の担当者を早い段階から招きます。住民の課題を一文にし、試行の責任者と決裁が必要な事項を確認します。
3~4週目:基準となる情報を集める
統計、既存の実績、現場の聞き取りを用い、試行前の状態を把握します。分からないことは「未確認」と記録し、都合のよい数字で埋めません。
5~8週目:限定した範囲で試す
参加者、費用、対応時間、困りごとを記録します。法令、個人情報、予算執行の確認が必要な場合は、試行前に所管部署へ確認します。
9~10週目:結果を検証する
できたことだけでなく、参加しなかった人、増えた負担、想定外の問題を確認します。利用者の変化が試行によるものか断定できない場合は、その限界も記載します。
11~13週目:次の判断につなぐ
継続、縮小、修正、停止のいずれかを選び、次期予算要求や既存事業の組替えが必要なら担当者と期限を決めます。
90日後に必ず事業化することが目標ではありません。90日後に、次の判断を行うための情報が増えていることを重視します。
指標は「活動」「変化」「負担」を区別する
小規模自治体では、指標の数を増やしすぎないことも大切です。例えば次の三つを別々に置きます。
| 分類 | 例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 活動 | 試行回数、参加事業者数 | 実施したこと自体と成果を区別します。 |
| 変化 | 継続利用意向、困りごとの軽減 | 因果関係は慎重に解釈します。 |
| 負担 | 職員・事業者の作業時間、実費 | 現行業務への影響も含めます。 |
利用者の満足度が高くても、実施主体が過大な負担を抱えていれば継続できません。逆に、利用者が少なかった理由が周知不足なら、すぐに需要なしと断定するべきでもありません。指標は判断を助けるために用います。
年度予算と90日間の試行を切り離さない
計画を実行へつなぐうえで、特に重要なのが財政担当との接続です。企画部門が試行を重ねても、本格実施に必要な人員や予算の議論が年度末に初めて始まるようでは、取組が途切れかねません。
試行開始前に、既存予算で可能な範囲、追加の承認を要する範囲、次年度に検討する経費を分けます。90日後の報告は、「実施しました」という活動記録だけではなく、「この条件なら続ける価値がある」「この費用を誰が負担する」「採用しない選択肢の理由」を含めます。
議会による予算審議など、自治体の正式な意思決定手続を省略することはできません。現場の試行と制度上の手続を早い段階で接続させることが、実行可能性を高めます。
確認事項を担当と期限に結びつける
次の表を使い、未確認事項を誰がいつ確認するかを記入します。項目数や合計点だけで実施の可否を決めるものではありません。
| 確認事項 | 状態・根拠 | 担当 | 期限・次の判断 |
|---|---|---|---|
| 改善したい住民の困りごとを一つに絞りましたか。 | |||
| 現状の事実と仮説を分けましたか。 | |||
| 最小の試行の対象・期間・費用を決めましたか。 | |||
| 判断する人と実施する人を決めましたか。 | |||
| 現行業務への影響を確認しましたか。 | |||
| 成果と負担を測る方法を決めましたか。 | |||
| 継続・修正・停止の判断日を決めましたか。 | |||
| 予算要求や正式な決裁との接続を確認しましたか。 |
確認表は本文中にも掲載しています。
記入例と、見直す条件
以下は記入方法を示すための架空例です。実在の事業の記録や成果ではありません。
例えば、買い物支援の試行で「受渡し担当の負担が未確認」という項目が残った場合を考えます。状態を「追加確認」、担当を「実施部署と協力商店」、期限を「試行範囲を決める会議前」とします。人数が集まるかだけでなく、通常の業務の中で担えるかを確認してから、対象地区を決めます。
許認可、住民の権利、安全、予算執行に関わる確認が済まない場合は、90日という区切りより正式な手続を優先します。必要な合意や季節条件が整わない時は、実施ではなく調査と判断の準備を、この期間の成果に置き換えます。
関連する論考
判断の背景を掘り下げる場合は、第18回「長期構想と年度の判断を、どうつなぐか」、第20回「小規模自治体の「近さ」を、判断の強みに変える」、第35回「国の制度を、地域の長期方針へつなぐ」をご覧ください。
自組織の条件に合わせた設計をご検討の場合は、地域創発研究所の相談窓口へご相談ください。
参考資料
参考資料は、国の地域政策の動向と総合計画に関する検討の背景を示すために掲載しています。90日間の工程と判断メモは研究所による実務上の提案であり、制度上の統一的な期限ではありません。個別の政策・交付金の適用要件は最新の所管機関資料と各自治体の手続で確認してください。
[1]内閣官房「地域未来戦略本部」(地域未来戦略・関連政策資料) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/chiikimirai/index.html
[2]内閣官房「新しい地方経済・生活環境創生本部」(地方創生2.0基本構想等) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_chihousousei/index.html
[3]地域創発研究所「総合計画が動かないのは、実行力不足ではない」 https://rile.jp/insights/rethinking-comprehensive-planning-as-a-complex-adaptive-system/