最近、複数の地域で、起業型地域おこし協力隊の皆さんの事業相談や研修に関わる機会がありました。
そこで改めて考えたのは、本人が大切にしている思いを受け止め、その実現を支える条件を一緒に具体化していくことの大切さです。地域で何を実現したいのか。その取組は誰にとって価値があり、どのような収入や働き方につながるのか。協力隊の任期が終わった後も、本人が納得できる形で事業と暮らしを続けるために、今、何を確かめておく必要があるのか。
今回は、そうした相談や研修を通じて、私が起業型地域おこし協力隊の支援で大切にしていることを整理してみたいと思います。
まずは本人が積み上げてきたことを捉える
今回の助言では、最初に、それぞれの取組で評価できる点を言葉にしました。構想を実際の行動に移していることや、相手の反応を受け取りながら提供する価値を具体化していること。そうした積み重ねの中に、次の展開を考える手掛かりがあります。
その際に意識したいのは、何が、どのような点でよいのかを具体的に伝えることです。「頑張っていますね」という言葉に加えて、これまでの行動のどこに強みがあり、何を伸ばしていけそうなのかを一緒に考える。本人が自分の取組を捉え直すためにも、この確認は大切だと思っています。
課題を考えるときも、対話の対象は計画の前提です。見込んでいる売上や必要な費用は、どのような根拠で置かれているのか。実現するために、どの条件を整える必要があるのか。そこに問いを向けます。
支援の場では、事業の規模や金額の大小で人を比べず、分からないことや迷っていることを表に出せるようにする必要があります。
本人の能力や意欲の評価に結び付けずに話せることが、事業の現状を正確に捉えるための前提になると考えています。個人的なお金の事情など、全員の前で話しづらいことを無理に共有する必要もありません。
本人の思いを相手が選ぶ理由につなげる
本人が何を大切にし、なぜその地域で取り組みたいのか。その思いは、事業を考える出発点です。
同時に、事業として続けるためには、価値を受け取る相手の側からも考える必要があります。
誰が、どのような場面で、何に価値を感じるのか。相手の困りごとや望みに対して、自分の取組はどう役立つのか。実際に利用した人や関心を示した人とのやり取りから、本人が想定していたものとは違う価値が見えてくることも考えられます。自分の思いを持ちながら、相手の反応を受け止め、届け方を調整していくことを大切にしたいと思います。
ここで、好意的な感想、実際の購入、繰り返し選ばれることは、分けて捉えます。「よい取組だと思う」という反応は大切な情報です。そこから、どのような条件ならお金を払ってもらえるのか、もう一度選んでもらえるのかを確かめることで、継続の見通しを具体的にできます。
また、価値を受け取る人と費用を負担する人が異なる場合には、それぞれの立場を整理する必要があります。地域にとって大切な取組を続けるためにも、誰がどのように費用を支えるのかまで考えておきたいところです。目指す地域の姿と、それを続けるための経営の条件をつなげることも、支援の大切な役割だと思います。
事実と見込みを分けて次の行動を決める
事業計画には、既に分かっていることと、これから確かめることが混在しています。実際の取引や支出から分かる数字もあれば、一定の根拠を持って予想している数字もあります。まだ調べていないこともあるでしょう。
研修資料でも、「事実」「仮説」「未確認」を分けて考えることを重視しています。分からない数字を仮に置く場合も、その数字が仮置きであることと、何を根拠に置いたのかを明らかにします。計画を考えるための数字が、いつの間にか実現の確かな見通しとして扱われることを避けるためです。
この整理をすると、次の行動も選びやすくなります。
相手が支払う意思を持っているかが分からなければ、具体的な条件を示して反応を聞く。必要な費用や時間が分からなければ、小さく実施して記録する。継続して選ばれる理由が分からなければ、利用した相手に次の利用をどう考えているかを尋ねる・・・と、確かめたいことに合わせて、試し方を選びます。
活動を振り返る際も、何を実施したかに加えて、その結果、何が分かったかを大切にしたいと思います。想定した反応が得られなかった場合にも、その理由が分かれば、内容や価格、届け方を見直す材料になります。
あらかじめ、どのような反応があれば続けるのか、何が起きたら変更するのかを考えておくことも有効です。次の判断を左右する不確かな点に問いを絞れば、限られた時間や資金を使う順番も見えてきます。
事業の数字を暮らしの見通しにつなげる
起業型地域おこし協力隊の支援では、事業に必要なお金と、本人が暮らしていくためのお金を、それぞれ把握しておくことも欠かせません。
売上から事業に必要な費用を支払い、将来の支出にも備えた上で、生活にどれくらい回せるのか。月ごとの入金と支払いの時期を並べたときに、手元の資金が足りなくなる期間はないか。売上や利益の見通しに加えて、実際のお金の動きを確認する必要があります。
その際、収入を一つの事業に集約することを、全員に求める必要はないと考えています。暮らしを支える安定した収入を確保しながら、主力にしたい事業を育てる方法もあります。新しい取組を試すのであれば、どこまで時間やお金を使えるかを考える。本人が望む暮らしから、収入の組合せと事業を育てる順番を整理していくことが大切です。
もう一つ、見落としたくないのが時間です。一件の仕事に必要なのは、相手に何かを提供している時間だけではありません。事前の調整や準備、実施後の対応、事務作業も含めて、どれだけの時間が掛かっているのか。本人だけでなく、家族や協力者にどの程度の負担が掛かっているのかも見ておきます。
売上を増やすほど無理が重なるのであれば、料金や提供内容、引き受ける量、役割分担を見直す必要があります。事業を続けることと、本人や周囲の暮らしを守ることを、同じ計画の中で考えたいと思っています。
事業の進み具合に応じて問いを変える
着任して間もない時期と、任期終了が近づいた時期では、優先して確認したいことが変わります。ただし、着任からの時間だけで支援の内容を決めることはできません。事業がどこまで進んでいるか、本人が今どのような判断を必要としているかを併せて見る必要があります。
初期の段階では、誰にどのような価値を届けるのか、最初の取引を実現するには何が必要かを具体化します。お金や時間についても見通しを置き、小さな実践を通じて、その見通しを確かめていきます。
取引が動き始めた段階では、実際の費用や作業時間を基に、無理なく利益が残る条件を探ります。同時に、約束した内容を継続して提供できるかも確認します。引き受けられる量や時期を把握し、相手と条件を共有することは、関係を長く続ける上でも大切です。
任期終了が近づいたら、それまでの実績を使って、支援終了後の収入と支出を具体的に見通します。確度の高い取引と今後の期待を分け、不足が生じる金額や期間にどう対応するかを考えます。必要によっては、ほかの仕事との組合せや、事業規模の調整も含めて検討します。
初期にも採算の見通しは必要ですし、任期後半にも試行や修正は必要です。その時点で得られている事実と残された時間に応じて、問いの優先順位と、判断に必要な根拠の確かさが変わるのだと思います。
支援者も次の一歩を試せる条件を整える
こうした対話を通して、本人が次に動ける形を見出せることを大切にしたいと思っています。面談で多くの課題が見つかったとしても、一度に全てに取り組むことはできません。次に何を判断する必要があり、そのために何を確かめるのか、まず取り組むことを本人と一緒に絞ります。
その上で支援者ができるのは、助言に加えて、必要な相手や情報、試せる場所や機会につなぐことです。どの前提を確かめたいのかが明確になれば、紹介する相手や機会も選びやすくなります。試行に力を貸してもらう場合には、協力する側の役割や負担も確認しておきたいと思います。
支援者自身の経験も、本人が選択肢を考えるための材料としてはっきりさせて残したいものです。その人が大切にしていることや生活の条件を踏まえて、どの道を選ぶかを一緒に検討する。そのためには、支援する側も、分からないことを確かめながら関わる姿勢が必要です。
地域で事業を続けるためには、本人の思いが相手にとっての価値となり、その価値を届け続けられる条件が整っていく必要があります。私は、その条件を本人と一緒に具体化する役割を担いたいと考えています。
面談が終わった後に、本人が自分の言葉で次の一歩を説明でき、その一歩を試す手掛かりもある・・・そうした支援を積み重ねていきたいと思います。
