エーゼログループ地域創発研究所の設立を機に、

「未来の里山」を拓く共創モデル:株式会社エーゼログループと自治体連携の軌跡

というシリーズを始めました。これまでの当社の動きを振り返り、これからの地域づくりのあり方を考える一助にしていただければと願っています。第1回は、その序章として、全体の概要をまとめてみました。

現代の日本社会は、人口減少、自然環境の悪化、地域における担い手不足、そして予測不能な自然災害といった、複雑かつ多層的な課題に直面しています。これらの問題に対し、従来の行政主導による画一的な解決策や短期的な補助金モデルでは、その限界が露呈しつつあります。このような状況下で、地域社会の持続可能性を追求し、新たな価値を創造する民間企業の役割がますます重要になっています。

本シリーズで焦点を当てる株式会社エーゼログループは、まさにこの新たな潮流を牽引する存在です。同社は、地域が抱える根深い課題に対し、独自の哲学と事業戦略をもって「未来の里山」を創造するという、革新的なアプローチを実践しています。その活動の中核には、自治体との単なる委託関係に留まらない、「共創」による強固なパートナーシップがあります。

エーゼログループの設立背景とビジョン「未来の里山」

株式会社エーゼログループは、2023年4月1日に株式会社西粟倉・森の学校とエーゼロ株式会社が合併して発足しました 。この合併の主な目的は「多拠点展開」にあり、両社の合計売上が約10億円に達し、経営基盤が強化されたことが、次の展開への重要な足がかりとなりました 。   

エーゼログループが目指す「未来の里山」とは、単なる過去の里山モデルの復元ではありません。それは、江戸時代から戦後しばらくまで維持されてきた、持続可能性の高い地域の社会経済システム、すなわち人と自然が共生する地域社会のあり方を、現代の技術と融合させたものです 。具体的には、インターネットなどの新しい技術を活用することで、地域内にとどまらないコミュニティ(オープンコモン)を形成し、食料やエネルギーの自給自足の必要性に応えつつ、ITやデジタルの進化によって失われがちな身体感覚を取り戻せる場所の価値を高めることを目指しています 。   

この「未来の里山」は、人が生き残るために必要な場所であると同時に、多様な命の繋がりを身体感覚を伴いながら実感し、人間が幸せに生きていくための場所であるという哲学に基づいています。この状態は、「自然資本」(自然や生態系、命の繋がり)がしっかり存在し、その上に「社会関係資本」(健全な人と人との関係性)が築かれ、さらにそれに立脚する「経済資本」があるという、自然・社会・経済の関係性が地域の中で確立された状態を指します 。   

同社の社名「エーゼロ(A0)グループ」は、森林土壌の表層にある堆積有機物層「A0層」に由来しています。A0層が豊かなA層(腐食を多く含む土壌)を守り育むように、エーゼログループも各拠点がそれぞれの地域の自然、歴史、文化、経済を守り育み、未来につながるチャレンジを育む「A0層」となるという思想が込められています 。   

多拠点展開戦略と自治体との「共創」の重要性

エーゼログループは現在、岡山県西粟倉村、滋賀県高島市、北海道厚真町、鹿児島県錦江町の4拠点にスタッフを配置し、事業を展開しています 。将来的には7拠点までの拡大を目指しており、これは日本全体に影響を与える会社となるため、そして災害時など、どこかの拠点が被災しても他の拠点によって支え合えるリスク分散のためであると説明されています 。   

この多拠点展開は、単なる事業規模の拡大やリスク分散に留まらない、より深い戦略的価値を持っています。特に、災害が多発する日本において、人々が安心して暮らせる場所を複数持つことの重要性をビジネスモデルに組み込んでいる点は注目に値します。これは、企業が単なる経済活動の主体としてではなく、社会インフラの一部として、顧客や従業員、そして地域社会全体に「疎開できる権利」のような新たな価値を提供しようとする姿勢の表れです。このような視点は、企業の社会的責任(CSR)の枠を超え、社会的なレジリエンス向上に貢献する、より高次の公共性を帯びたビジネスモデルとして評価できるでしょう。

自治体との連携は、エーゼログループの事業戦略の中核をなしており、単なる受託関係に留まらない「共創」のパートナーシップを重視しています。これは、地域が持つ内発的な変化を支え、持続可能な地域のかたちを共に育むという、同社の地域創発研究所の理念にも通じるアプローチです 。   

事業領域:自然資本、社会関係資本、経済資本の有機的連関

合併にあたり、エーゼログループは「自然資本領域」「社会関係資本領域」「経済資本領域」の3つの事業領域を設定しています。これらの領域がバラバラではなく、相互に関連し合い、有機的な連関と循環を醸成することで「未来の里山」の実現を目指しています 。   

例えば、収益性の高い経済資本事業領域である地域共創事業部が、木材加工事業や農業といった、必ずしも収益性が高くないが地道で大切な自然資本領域の仕事の経験を内部に持つことで、同社は単なるコンサルティング会社ではない、地域で事業を創り育てることに深く関われるという自負を持っています 。   

この多角的な事業展開は、同社が提唱する「会社の百姓化」という思想を具現化したものと言えます。かつての里山では、家という単位で年間を通じて、時間と空間を効果的に使いながら農業や畜産など多様な生業を成り立たせていました。エーゼログループは、これと同じ考え方で、会社という単位の中で、木材、養鰻(2024年12月に休止)、獣肉加工、いちご、養蜂、飲食、福祉、宿泊、起業支援、ふるさと納税といった多岐にわたる事業を複合的に展開しています 。   

この「会社の百姓化」は、単一事業の脆弱性を補い、地域資源を最大限に活用し、地域内での経済循環を促進するための戦略的な選択です。これは、人口減少や環境悪化、担い手不足といった現代の地域が直面する複雑な課題に対し、包括的かつ持続的な解決策を提供するための必然的なアプローチであり、地域生態系全体のレジリエンスを高める新しいビジネスモデルの可能性を示唆しています。企業が地域社会のインフラの一部となるという、より深いコミットメントを意味するものです。

本シリーズの構成と目的

本シリーズでは、エーゼログループと各自治体との具体的な委託・協働事業の事例を深掘りし、その背景、活動内容、成果、そして成功の鍵を多角的に分析していきます。読者の皆様が自身の地域課題解決や官民連携の参考にできるよう、実践的な示唆を提供することを目的とします。

次回の記事からは、具体的な事例として、エーゼログループの原点ともいえる岡山県西粟倉村での取り組みから詳細に見ていきます。


エーゼログループ 主要拠点と自治体連携事業概要

拠点名(自治体名)拠点設置時期主要な委託・協働事業連携の性質エーゼログループの主な役割主な成果/インパクト(簡潔に)
岡山県西粟倉村2009年10月1日百年の森林構想、ローカルベンチャースクール、ふるさと納税関連事業、福祉事業、木材・加工流通事業、養鰻・イチゴ等自然資本事業、建築・不動産事業協働、委託、共同出資事業化、運営、起業支援、地域事務局、生活基盤支援人口減少抑制、所得改善、多数の起業家輩出、資源循環型経済確立
北海道厚真町2018年5月1日ローカルベンチャー等推進事業(ローカルベンチャースクール)、ふるさと納税委託事業委託、協働LVS企画・運営、起業支援、地域資源発掘・情報発信震災復興とレジリエンス強化、約20社の新規事業創出、地域経済活性化
滋賀県高島市2015年5月1日農福連携事業(ホトラ舎、やまえみ)、苗木生産事業、宿泊施設運営(山里暮らし交房 風結い、たいさんじ風花の丘)協働、指定管理福祉サービス提供、就労支援、地域資源活用、交流拠点運営障がい者・生活困窮者の就労支援、地域資産の再活用、関係人口創出
鹿児島県錦江町2023年4月1日錦江町重点ベンチャー支援事業(錦江町ローカルベンチャースクール)委託、協働ローカルベンチャー発掘・育成、地域資源発掘、共創基盤整備新たな産業と挑戦の連鎖創出、地域の内発的変化促進(初期段階)